絆〜Pieces〜 No.58
目の腫れも引いた頃。
メイクも、直して。
あたしとだいすけは、一緒に、いた。
だけど、その時の会話を、
あたしはほとんど覚えていない。
たぶん、強がっていたんだ。
暴れたいほど、悲しかったことなんて、
全部、全部、自分の中に隠して。
あたしは、強がって、いたんだ。
スネたフリや、ふくれたカオは、した。
ちょっと悲しかったよ、なんてことも。
でも、ホントに思ったことが、言えなかった。
だから、会話を、ほとんど覚えていない。
普段と同じように、ご飯を食べて。
普段と同じように、タバコを吸って。
だけど、2人の間には、少しだけ。
いつもと違う空気が流れていた。
信じてないワケじゃない。
だけど、言葉に出来ない不安と、
例えようのない寂しさが、
ずっと、胸に残っていて。
組長のおかげで、少しだけ軽くなったけど。
それでも、あたしの気持ちには、
何かが、ずっと、引っかかって、いたんだ。
そんな状態のまま、とうとう。
再入院の日にちが、決まった。
それは、本当に突然で。
周りの仲間たちも、施設の職員も、
モチロン、あたしの家族たちも。
みんな、驚きを隠せないほどに、突然で。
あたしは、必要最小限の荷物と、
不安と寂しさを持って、病院に向かった。
夏の、日差しが、眩しい日だった。
懐かしい病室。懐かしい看護師さん。
最初の入院から、1年半が経っていた。
その時と同じ病室の、同じ場所。
そこが、あたしのベッドで。
だけど、あの頃とは確実に違う気持ち。
障害に対しても、恋愛に対しても。
あたしは、だいすけに電話をするために、
何度となく、病室を出た。
離れてる間に、だいすけが。
どこかに行ってしまいそうで、怖くて。
声を聴いていないと、不安で。
それ以上に、何かが、あたしの中で、渦巻いて。
入院生活は、ずっと、そんな毎日の繰り返しだった。
月曜日には、施設に通所していた知人が、
毎週ジャンプを届けにきていたし。
金曜日には、北原さんが遊びに来ていた。
北原さんは、毎週のように来てくれて。
一緒にスタバのコーヒーを飲みながら、
タバコを吸って、色んな話を、したんだ。
そう。まるで、施設の喫煙所みたいに。
その頃にはもう、北原さんも。
あたしとだいすけの関係を知っていて。
何も言わないけど、わかってくれていて。
あたしの、不安な気持ちも。
寂しさも、こっそり泣いていることも。
北原さんには、全部、お見通しで・・・。
毎週のように、笑わせてくれて。
慰めてくれて、勇気をくれて。
あたしは、姐御のハズだけど。
北原さんは、兄貴だった。
そして、土曜日か日曜日になると、
だいすけが、来てくれていた。
毎回、会うたびに、胸が苦しかった。
嬉しいのに、どこか胸が苦しかった。
この苦しみが、ずっと、胸の奥に引っかかった何か。
あたしの中で渦巻いている何か、だったのかもしれない。
検査をしても、わからないことだらけの病状。
これから先、どうなるかもわからない症状。
もし、もしも。今より、症状が重くなったら。
そんなことを、考えずにはいられない日々の中、
頭に浮かぶのは、だいすけと、彼女で。
あたしが、だいすけの傍にいたら。
だいすけには、重荷になるんじゃないかな。
彼女とだったら、だいすけは、きっと・・・。
そう思うと、だいすけに来てもらってることも、
だいすけに会って、笑っている自分も、
甘えてしまう、自分も・・・。
全部が、どうしようもなくイヤで。
そんなあたしに笑いかけてくれるだいすけが、
本当に、眩しくて。見てるのがツラくて。
胸が、苦しかった。
あたしは、病棟での担当医に、言った。
ねえ、先生。あたしに未来って、あるの?
先生は困ったような顔をして、だけど笑って。
まきちゃんは前向きだから。頑張っていけるよ。
あたしは、全然、前向きなんかじゃない。
今、この瞬間だって。怖くて、苦しくて。
これ以上悪くなって、動けなくなって。
そしたら、だいすけに、どう伝えたらいいの。
優しい子なの。だいすけは、優しい子なの。
きっと、動けなくなったあたしに対して、
ツラくても別れなんて言い出せない子、なの。
それがわかってるけど、あたしから。
別れなんて、言えないの。言いたくないの。
先生、あのね。
治したいわけじゃ、ないの。
もう、治したいとか。そんなんじゃ、ないの。
動かない脚、動かないままでもいい。
感覚も、ないまんまでも、いい。
手だって、うまく動かないままでいいよ。
もうね、今以上のものなんて、望まない。
治したいなんて、高望みは、しないから。
原因だって、病名だって、今のままでいいから。
だからね、先生。
お願いだから、今より悪く、させないで。
不全が完全になっても、かまわない。
この手が、ギリギリでも車椅子をこげるなら。
リハビリも、ゼロから始めるのもかまわない。
自走式の車椅子に、乗れるのなら。
先生、お願い。
カラダの半分は、神様にあげていいから。
だから、お願い。
これ以上、怖い思いはしたくないよ。
助けて。
だけど、その願いは。
届いたのかどうかすら、わからないまま。
何もかもが、あやふやな、まま。
あたしは、入院生活を、終えた。
〜続く〜

↑今現在も、どーなるんか良くわからんっちゃ☆